一人親方法人化

一人親方の法人化は、個人としての事業を廃止し、新しく法人を設立することです。一人親方は基本的に個人事業主ですが、法人化することもできます。

一人親方の場合、まずは個人事業主として独立する方も多いでしょう。個人事業主として仕事を始めるには公的な手続きが必要ですが、法人化の手続きほど複雑ではありません。

法人化する場合には、順序だてて準備をおこなうことが大切です。法人化すれば個人事業主だったときの事業をそのまま継続できるのと同時に、資産・債務・名義なども引き継ぐことになります。

法人化のタイミング

一人親方が法人化をするタイミングは、いくつか目安の時期があります。絶対的な正解はありませんが、おおよその目安はあるため、法人化のタイミングを見極めるようにしてください。

【年間所得が1,000万円を超えた時】

まずは年間の所得(利益)が1,000万円を超えたタイミングで法人化するというものです。

この主張の根拠は「所得税と法人税の税率の違いから、法人化したほうがお得になる」という考えです。

個人事業主である一人親方の場合、個人の所得に所得税がかかりますが、法人が納める法人税は、法人としての所得に課税されます。つまり、利益は同じ金額でも、支払う税額に差が出るため、税金が安いほうが得ということです。

注意したいのは、法人化した場合、別途支払いが発生するものがある点です。たとえば、法人住民税の最低額7万円や、複雑な決算申告を依頼する税理士への報酬などが挙げられます。

とはいえ、所得が900万円を超えると、所得税率は33%、法人税率は23.2%と、明らかに所得税率のほうが高くなり、法人のほうが得です。諸々の支払いを考慮しても、年間の所得がおよそ1,000万円を超えたころが、法人化するタイミングと考えられます。

なお、法人税率は軽減の方向にあり、平成24年には軽減税率の特例ももうけられました。今後も法人税率の改正などを確認したうえで、法人化のタイミングを見極めてみてください。

【年間の売上が1,000万円を超えたとき】

消費税の課税が開始される時期を根拠としています。

一人親方に限らず、事業者が納める消費税には免税制度があります。免税になるのは、「前々年の売上が1,000万円以下の事業者」です。

2年前の売上が1,000万円以下の個人事業主は、その年の消費税の納付が免除されます。また、個人事業の開始から2年間は前々年というものが存在しないため、やはり消費税の課税事業者にはなりません。

一方、売上が1,000万円を超えると、その2年後には消費税を納めなければならない年がきます。ただし、法人化をした場合、それまでの個人事業の売上実績がリセットされ、新しく「2年」のカウントが始まるのがメリットです。つまり、法人化によって、消費税を納める開始時期を先送りできます。

そのため、個人事業主として売上が1,000万円を超え、消費税の納付義務が生じる直前に法人化できれば節税につながるでしょう。

【事業拡大を望む時】

3つ目は「法人化のタイミングは事業拡大を望んだ時」という考えです。所得税や消費税の損得ではなく、経営方針で決めるべきという考え方になります。

個人事業に比べ、法人は一般的に信用度が高いため、大規模な仕事を請け負ったり、大きな借り入れをしたりできます。優秀な人材を雇いたいときにも、一般的に法人のほうが応募者も多くなるのがメリットです。

そのため、積極的に事業を拡大していきたいと望む場合は、法人化を検討するのも良いでしょう。

法人化のメリット

【税制面の優遇措置が多い】

法人の場合、個人事業主と比べて税制面の優遇措置が多く、以下のような違いがあります。

・給与所得控除が使える

・法人税は所得税と異なり一定の税率

・経費の幅が増える

・欠損金を10年間繰り越し可能

・消費税の免税効果

・家族への給与が支払える

このなかでも特に有利なのは法人税が一定であるということです。これに対し個人事業主では所得に比例して税率が高くなります。そのため、売上が大きいほど法人化による節税効果は高まります。

さらに代表者は役員報酬として給与をもらうことで、そのなかの一部をさらに必要経費として計上できる、課税所得を小さくすることが可能です。

【対外的信用度が増す】

会社の場合は、かならず登記が行なわれ、登記によりその存在を公に示すことができます。会社の住所や商号、目的などが記載され、個人事業主よりも信頼度を高めることができます。

事業をするうえでは対外的な信用度が重要になってきますので、個人事業主としてでは取引できなかった大手企業とも話をさせてもらえる可能性もでてきます。

事実「○○会社」とあるだけで取引先の受ける印象は変わります。

今は資本金が多くなくても会社設立ができるため、個人事業主でいることに大きなメリットがなければ法人化するほうがよいでしょう。

【信用度アップで資金調達がしやすい】

先述した「対外的信用度が増す」というのは、資金調達の面でも役立ちます。信用がなければ資金調達できても少額です。それでは事業の継続が難しくなったときや事業を拡大したいとき、大変なことになるかもしれません。

法人化することで、資金調達がしやすくなるのも1つのメリットです。

【事業承継がしやすい】

個人事業主の場合に比べて、法人だと事業継承がしやすくなります。次期代表者がスムーズに必要な手続きを行なえますし、相続人間でのトラブルも防ぎやすくなります。

【社会保険に加入できる】

個人事業主の場合は、社会保険への加入が難しく、福利厚生の面で不安があります。しかし法人化すれば社会保険に加入でき、安定的に活動をしやすくなります。これは大きなメリットとなるでしょう。

法人化のデメリット

【法人設立時に時間・手間・費用がかかる】

 現在は資本金が1円でも法人化することができますが、株式会社の場合以下の費用がかならずかかります。

・公証人の手数料:50,000円

・登録免許税:150,000円

また会社設立のための定款の作成・登記申請など、個人事業主がビジネスをはじめるよりも多くの時間を必要とします。

【報酬などの経費負担が増える】

後述する事務負担の増加により、税理士へ支払う報酬が個人事業主と比較して大きくなります。また法人化すれば、社員の加入する社会保険の負担分を担う必要もでてきます。

個人事業主ではかからなかった部分が法人化により発生するケースは多いため、しっかりと確認することが大切です。

【赤字決算でも法人住民税の支払いが必須】

毎年住民税の支払いは必須です。個人事業主の場合、1年の利益が赤字であれば所得税や住民税は発生しませんが、企業の場合はかならず税金の納付が必要になります。

赤字額に関わらず年間7万円の税金がかかってしまうので、法人化による利益のほうが大きいことを確認してから法人化しましょう。

【事務負担が増加する】

個人事業主のときよりも税金申告が複雑で、税理士や公認会計士などの専門家が必要になる可能性が高まります。法人として依頼したほうが金額は上がる傾向にあるため、法人化によるデメリットといえるしょう。少なくとも年間30万円以上の税理費用がかかると考えておきましょう。

また、社会保険や労働保険、株主総会の開催や役員変更登記などの手続きにかかる事務負担も増えます。

まとめ

以上、一人親方の個人事業を廃止し、法人化する場合のメリットやデメリットを紹介しました。法人化はこれから導入されるインボイス制度にも対応出来るので、収入の上がってきた一人親方の方は検討してみて下さい。