一人親方として
一人親方が活躍するために、そして一人親方を守るためにあるのが建設職人基本法です。
この法律をしっかりと理解しておくことで、仕事の受注もしやすくなるでしょう。
今回は一人親方に関する法律を紹介します。
建設職人基本法
建設職人基本法(建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律)は一人親方が理不尽な職場環境で仕事させられることのないように定められた法律です。
内容を知っておくことで元請けに抗議できることもありますし、元請けに口答えできないと思っていても、いざとなった時にこの法律が自分を守る術になります。
知らないと上手く交渉できません。まずはこの新しい法律の特徴を知っておきましょう。
【安全と健康の確保を民間工事にも厳しく求める】
請負契約の中で災害補償の保険料を含む経費を明示することや、適切な工期を確保することなどを促しています。対応を迫られる元請企業は、経費の上積みが必要になりますが、それが元請の責任だと理解するべきです。
【労働法制では保護されなかった「一人親方」も対象に】
建設業の、一人親方は全国に約50万人いるといわれています。「弁当は自分持ち」という古い風潮が残る上、下請けの末端で働く人が多く、待遇改善を求めにくい実情があります。
新法を機に、立場にあった保険加入の向上や安全教育の徹底が期待されています。ただ、この法律には、残念ながら罰則規定がない努力義務規定となっています。
政府は法に基づく基本計画を閣議決定し、請負代金や工期を適正に設定することを掲げましたが、業者にどこまで徹底できるかは、今のところ未知数です。
建設職人基本法の概要
【適正な請負代金の額、工期等の設定】
建設業の請負契約においては不当に低い請負代金や不当に短い工期で締結されれば、受注者に工事の施工方法、工程等について技術的に無理な手段等を強いることになります。
適正な施工が確保されず、労働災害や公衆災害等の発生につながる恐れがあります。
建設業の請負契約では不当に低い請負代金や不当に短い工期で請負契約を締結されることを禁止されています。
なぜなら安い代金や短すぎる期間では、職人にとって無理がある手段で行うことを強いることになって、怪我や死亡事故などにつながる恐れがあるからです。
請負代金については、
・日当の相場
・資材の相場
・施工の実態
・安全確保のための経費
を確保できる金額にすべきであると定められています。
これに加えて、労働安全衛生法でも、労働災害防止策を元請けが講ずべきであると書かれており、安全に対する経費は元請けが負担すべきものと決まっています。
工期についても書かれており、工事の性格や地域などによって、自然条件で左右する不稼働日を計算に入れた上、さらに週休2日を確保して日数を設定する義務があります。
【建設工事従事者の処遇の改善及び地位の向上】
一人親方も含めた建設工事従事者の健康は、労働安全衛生法に基づくのはもとより、建設業界でも独自の準備をする必要があります。
・環境整備
・適切な賃金水準の確保
・社会保険の加入徹底
・休日の確保
・長時間労働の是正
などの働き方改革や地位の向上が図られること等が必要になります。
建設職人基本法の必要性
建設職人基本法の前に労働安全衛生法があるので、それでいいのではと思われる可能性もあるのですが、実際には労働安全衛生法は労働者のための法律なので厳密には一人親方は対象ではないと覚えておいた方がいいでしょう。
一人親方は労働者ではなく個人事業主なので、会社に所属して労働者として法律で守られる立場ではありません。
ただし労災の特別加入と同じように、実質労働者に近い立場である一人親方は守られるべきだと言う考えが日本国の考え方です。そのために建設職人基本法が必要となったのでしょう。
労働安全衛生法の欠点
労働安全衛生法は昭和47年に施工された法律で、職場環境改善のため作られました。
このおかげで労働災害での死者数は昭和47年の時期は、年間約2700人いたのが、平成28年には294人になっていました。これは間違いない進歩です。
ですが一人親方や個人事業主の死者数はいまだ年間400人を下回ったことがありません。これは毎日1人以上、日本のどこかで一人親方が労災事故で亡くなっていることを意味しています。
これは労働安全衛生法が一人親方に適応されておらず、そのため無理を強いられてしまい、死亡事故につながるのが原因と考えられています。
一人親方への対処の必要性
一人親方は労働安全衛生法における労働者に該当しないため、この法律の直接の保護対象ではありません。
しかし実際には建設現場では、他の労働者と同じ環境で同じ作業を行っているのが現状です。
厚生労働省の調査では平成28年に確認できているだけでも、75人の一人親方が労働災害での死者数になっています。
この現状からして、一人親方に対し一人親方の命を守る安全上の必要性ができたため、この法律ができました。
一人親方の安全の責任の所在
一人親方にとって、自分の安全を確保するのは当然として、国は元請け側にその責任を認めています。請負契約において、無理な請負代金や、無理な日程での契約は事故につながると国が認めています。
さらに安全に対する経費も元請けが持つべきだと示しています。
例えば高所作業におけるフルハーネス型安全帯は義務化されていますが、これの経費を元請けか一人親方のどちらが払うべきか問われれば、元請けが用意すべきであるとなるでしょう。フルハーネス型安全帯は別としても、急遽必要な安全のための準備は元請けが準備すべきであると言うことは覚えておいて損はありません。
そしてもし準備を求められれば、建設業法第 19 条の3に規定する「通常必要と認められる原価」に含まれるため、国土交通省に訴えるべき事案であると言えます。
【建設工事従事者の安全及び健康に配慮した工期の設定】
建設業界では過労死はあまり聞きませんが、しかし過労した場合に事故が起きている点は見逃せません。現状安すぎる単価や短すぎる納期(実質の定単価)のせいで、職人の健康被害はあると言えるでしょう。
実際、1日中働き帰ってきて、翌日の準備をすれば午前様。そして朝も6時から出ていくなんて一人親方さんもいらっしゃるはず。
こうならない為にも、休日を含む日程調整や、適切な納期が定められていない場合は、違和感をもって記録しておくなどの対処をしておいた方がいいでしょう
建設工事の現場における措置の統一的な実施
建設現場において一人親方と労働者の扱いの違いも問題になっています。
一人親方は法律上、事業主ですが建設業界において実態は労働者と同じです。
ですから労働環境の改善は、労働者と一人親方の分け隔てなく行われるべきであり、違いがあることは問題だと把握しておきましょう。
労働者ではないため、最低賃金などの取り決めはありませんが、一般的な、かかる工数などを考えた場合に、明らかにおかしい状態であれば問題を感じて抗議するべきです。
【特別加入制度への加入促進等の徹底】
一人親方は労働法制上の保護の対象となる労働者ではないため、本来の労災保険の対象となりません。ですから労災保険の加入は原則としてできないのですが、労災保険への加入を希望する場合、労災保険の特別加入者として任意加入ができます。
一人親方にとって、労災保険は義務ではありませんが、安い保険料で手厚い保障が受けられる権利です。必ず加入するべきものです。
この法律によって、一人親方への加入奨励を行う企業もあり、現場によっては入る為に必須にされている場合も多く、どの面を考えても、労災保険の特別加入は一人親方がしておくべき課題でしょう。
まとめ
法律は堅苦しく、難しい印象を抱きます。しかし、基本的な部分を押さえておくだけでも随分と変わります。しっかりと知識を付け、交渉に役立ててください。