前回は労働災害の基準、どのようにして現場で起きた事故が正式に労働基準監督署にて「労働災害」として認められるかについて解説してきました。今回は、発生してしまった事故の根本的な原因の解明と、その責任の所存についての考え方について解説していきたいと思います。

安全配慮義務違反について

複数の業者や作業員が関与している可能性が高いため、事故が発生した原因について、責任の所在を正確に把握する事が難しい事が多いです。

(1)下請業者の責任

使用者は、労働者に対して安全配慮義務を負っています。これは労働契約法第5条によって定められており、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。

建設現場や高所などの危険な作業場所で仕事をさせる必要があるときは、起こり得る危険に対しての防止措置や安全対策を講じる義務が課されています。なので、下請業者の危険防止措置に不備があり、それが原因で高所からの転落事故や落下物による怪我が発生した場合は下請業者が安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことになります。

(2)元請業者の責任

発注先である下請業者の従業員と元請業者との間には労働契約関係がありません。そのため元請業者が労働契約上の義務としての安全配慮義務を負うことはありません。

しかし、そもそも「安全配慮義務」というのは直接の労働契約関係になくても、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間」において信義則上認められる義務の一つです。したがって、元請業者と下請業者の従業員との間に「特別な社会的接触関係」があると認められた時は、元請業者は、下請業者の従業員に対して、安全配慮義務を負うことになります。

ちなみに「特別な社会的接触の関係」というのは、例えば下請業者の従業員が元請業者の管理する設備や工具などを使っていたり、事実上元請業者の指揮監督を受けて働いていた場合を指します。作業現場の事実上の安全管理を担っていた場合には「特別な社会的接触の関係」が認められる可能性があります。

なので、元請業者から事業を請け負った一人親方であっても、「実質的な使用従属関係」があると認められる場合には、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を元請業者に対してすることが可能となります。

また、民法715条1項に基づいて、元請会社に対して「使用者責任」を追及することも可能です。これは元請業者の従業員の過失が原因で、下請業者側に事故にあった場合に適応する事が出来ます。

(3)発注者の責任

発注者も元請業者同様に、労働契約関係のない下請業者の従業員に対しては安全配慮義務が発生するものではありません。しかし、発注者も下請業者と「特別な社会的接触関係がある」ときには、安全配慮義務を負うことになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は労災が起きた際の責任の所存について、法規上どのように定められているかを解説させて頂きました。次は実際に労災として認められた場合の請求可能な賠償について詳しく見ていきたいと思います!